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今井むつみさんの書籍から学ぶ「学び」の本質(後編)

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「探究人」を目指すためのプレイフル・ラーニング

2016年に出版された『学びとは何か』では、「探究人」を育てるべきだと著者は主張しています。「探究人」とは、“自分は何を目的として学びたいのかを考え、その目的のために最も適した方法を考え、実践し続けることで、新たな道を切り拓いていく人”のことです。

書籍の中では、将棋の羽生善治氏や元メジャーリーガーのイチロー氏が「探究人」の具体例として挙げられています。

また、子どもが将来、自分の選んだ分野で「探究人」となれるよう育てるための鉄則として、次の2つを挙げています。

1. 「生きた知識」を持てる人間になること

2. 親自身も探究人であること

この2つに共通し、核心をなす考え方として、最も重要なのが「遊びの中から探究心を育む」ことだとされています。なお、2番目の「親も探究人であること」とは、親が学び続ける姿勢を持ち、自分の興味や仕事において常に知識を更新し、それを実生活に活かしていく姿を子どもに示すことを意味します。

一方で、何のために学習の時間をもうけるのかという発想を持たずに、ただ時間を節約し、効率性を追い求めれば、学びが浅くなり、「死んだ知識」をため込むことになるとも警告しています。

さらに、最新の著書『学力喪失』の後半では、生成AIの登場を受けて、これからの学校教育のあり方について言及し、提案を行っています。

著者はまず、生成AIと人間との違いとして、「概念」を理解できるかどうかを挙げています。人間は概念が持つ「意味」を理解し、納得し、応用することができますが、AIはそれができません。

分数の理解を例に取り、人間の子どもとAIとで、分数にどのように向き合うかを比較することで、その違いが示されています。

この議論を踏まえ、子どもが物事を学んでいく過程、つまり「学びのスパイラル」を説明し、学校が果たすべき役割について論じています。

子どもが学ぶプロセスは以下のように整理されています:

① 物事の「概念」と「意味」を理解し、自分のものにする(=知識の身体化)
② その概念を別の分野に応用してみる
③ 応用の結果から新たな学びを得る
④ 既存の理解に誤りがあれば修正する
⑤ 思い込みを排除し、検証を重ねながら進めていく

このサイクルを繰り返すことで「生きた知識」が得られ、より高次の学びへと発展していくのです。

学校の役割は、このスパイラル学習を実現できるように、子どもを支援し、適切な「足場」を提供することだと著者は述べています。そしてその役割は、学校だけでなく、親をはじめとするすべての大人に共有されるべきだとしています。

では、具体的にどのような学びが「生きた知識」につながるのでしょうか。著者はそれを「プレイフル・ラーニング」と名づけ、提案しています。

プレイフル・ラーニングとは、遊びを通じて知識を経験と結びつけ、学びとして習得し、それを応用・工夫してさらに新たな学びへとつなげていく学習方法です。実践例として、広島の小学校で分数や時間の単位を学ぶためにカードゲームを使って学ばせています。

例えば、分数の学習については、トランプの「大富豪ゲーム」に似た遊び方を通して、遊びながら分数の意味を実感してもらっているようです。カードの枚数は、通常のトランプと同じく全53枚。それぞれのカードには、0から2までの範囲の分数や小数、そしてそれらを表す果物などのイラストが描かれています。中には、約分すれば整数になる分数や、整数にはならない仮分数も含まれているそうです。また、ジョーカーも2枚含まれています。ゲームの進行は、じゃんけんでカードを出す順番を決め、場に出ているカードの数より大きい数のカードを出していくというルールです。こうした遊びを通じて、分数や小数に対する数量感覚を自然に身につけることが意図されています。

このように、遊びを通して数や量の意味を理解し、それを他の分野や教科にも応用できるかを自ら考え、試行錯誤を重ね、間違っていたら自分で修正していく——こうしたサイクルを繰り返しながら「生きた知識」を習得していく授業が理想とされています。つまり、「学びが遊び」になるような授業を目指すことが大切だとされているのです。

プレイフル・ラーニングを実現するためには、先生(大人)が子どもの学びを支援するファシリテーターの役割を担うこと、そして学校が子どもにとって安心してリラックスできる場所であり、「わからない」「なぜ?」と自由に質問し、間違いや失敗を恐れずに挑戦できる場であることが、それぞれ求められるとされています。

AI時代における教育

最後に、AI時代の到来を受けて、学習におけるAIの活用についての懸念が示されるとともに、そうした時代において学校の先生(大人)に向けたアドバイスが述べられています。

学習におけるAIの利用に関する懸念としては、以下のような点が挙げられます。

  • AIがもたらす効果として、特定の教科や特定の問題に対する正答率の上昇など、短期的な成果だけを評価すべきではない。
  • AIの活用によって生まれる効率性の意味を取り違えてはならない。
  • 学習のすべてをAIに任せてしまう人と、自ら考え、そこから「生きた知識」を得ようとする人との間に、分断が生まれる可能性がある。

学校の先生(大人)に対しては、次のような問いかけとアドバイスが述べられています。

… 呼吸をするのと同じくらい当たり前に日々世界を探索し、学び続けている子どもたちが、なぜ学校では自ら知の世界を模索することをしなくなるのだろうか。教えてもらった知識の断片を「覚えること」が学校ですることだと思ってしまい、その結果、学ぶ力を喪失してしまっているのだろうか。このことは、教育にかかわる仕事をしている人たちだけでなく、社会のすべての大人が真剣に問い、考えなければならないことだと思う。

先生は、教科の内容を完璧にわかりやすく説明することで自分の仕事に満足するべきではない。自分の伝える言葉を子どもがどのように受け止め、解釈しているか、子どもがほんとうに概念の本質を自分の推論によってつかんでいるか、自分勝手に誤解していないかということにこそ、注意を向けなければならないのだ。

子どもたちが何かに興味をもち、その分野に深く取り組む「探究人」を目指すこと。これが、AI時代を生きる子どもたち、そしてそれを支える大人たちへの今井むつみさんの願いとして、本書は締めくくられています。

読後感

今井さんの一連の著書を読んで、私が特に共感した点は、以下の三つです。①「探究人」を目指すこと、②「プレイフル・ラーニング」の活用、③教育への「認知科学・学習科学」の応用

まず、「人は探究人を目指すべきだ」という理念は、教育に関わる者として深く心に残りました。子どもたちが何かに興味を持ち、それを通じて学び、熟達していくことが望ましいという考えは、エスファシルの塾が掲げる理念とも一致しています。エスファシルには「学び飛び立ち、走り出す」というモットーがあります。これは、子どもたちに(学校の勉強という狭い意味にとどまらず)学ぶことへの関心を持ち、自ら学び続けてほしいという願いを込めたものです。そのため、著者の理念には強く共感を覚えました。

また、著者が提唱する「遊びながら学ぶ=プレイフル・ラーニング」も、今後の教育・学習の方法として重視されるべきだと思います。遊びは本来、楽しいものです。楽しいと感じた経験は記憶に残りやすく、また遊びは受け身ではなく、自ら進んで関わる活動です。自らの意志で「知りたい」「工夫したい」「これは何だろう?」と疑問を持つこと。他者とのやり取りの中で得られる発見。これこそが「学び」だと言えるのではないでしょうか。このように、遊びを通じて得られる学びはやはり大切です。

エスファシルでも今年度(注:2025年度)から一部のコースで「遊びながら学び、学びながら遊ぶ」というコンセプトを掲げています。一昨年から導入しているカードゲームを通じた数量感覚の育成も、こうした考えに基づく取り組みの一環です。

さらに、認知科学・学習科学・発達心理学の知見を教育・学習に活用していくことにも賛成です。教育は、とかく指導者の経験に依存しやすい属人的な側面が多くあります。もちろん、相手が子どもである以上、教える側の人間性や個性が大切であることは間違いありません。しかし同時に、子どもがどこでつまずいているのかを明らかにし、それを「わかる」に変えていくためには、つまずきの原因を定量的・定性的にとらえる視点も必要です。幸い、認知科学や学習科学の発展により、人がどのように物事を学んでいくのかという知見が蓄積されつつあります。つまり、個人の経験や主観的な判断に頼るのではなく、客観的な指標に基づいて子ども一人ひとりに合った学習支援が可能になってきているのです。

最後に、スキーマについても触れておきます。私は以前からその用語自体は知っていましたが、スキーマには良い面だけでなく、誤った方向へ導く面があること、そして子どももその影響を受けやすいという点には、正直驚きました。子どもは大人よりも偏見が少なく、物事を柔軟に受け入れられる存在だと考えていました。だから誤った理解は持たない――という認識がどこかにあったのかもしれません。つまり、「勉強ができないのは、子どもが単に知らないだけ」「あるいは私たちの教え方が悪いだけ」と捉えていたのです。しかし実際には、子どもであっても誤ったスキーマを持っていれば、当然間違えるのです。著者の「子どもが誤ったスキーマを持たないように、また持っていた場合には修正を支援するのが大人の役割である」という考えには、多くを学ばされました。

ここ2年ほど、塾の授業内容や指導の幅を広げるため、ゲーミフィケーションや認知バイアスに関心を持ち、少しずつ関連書籍を読んだり、インターネットや動画を通じて学んだりしています。今井さんの著書は、そうした分野への理解をさらに深めてくれたと感じていますし、今後の学びへの関心を一層高めてくれたと実感しています。

《出典》
・今井むつみ(2016)、『学びとは何か ― <探究人>になるために』、岩波書店
・今井むつみ 他(2022)、『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』、岩波書店
・今井むつみ(2024)、『学力喪失 ― 認知科学による回復への道筋』、岩波書店

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